No.54 東京学芸大学教育学部E類教育支援専攻ソーシャルワークコース対象2018年度小論文模範解答例

今回は東京学芸大学の小論文です。「ひきこもり」問題の現状を説明した課題文を読み、自分の考えを述べるものです。課題文はhttp://www.cybercollege.jp/u-gakugei/index.phpからご覧ください。教育学部の問題なので、教育的観点から述べることが望ましいかもしれません。ですが、今回は「ソーシャルワークコース」対象の問題なので、社会学的視点で書いてみました。

 

もちろん、「多様性」や「教育がひきこもり問題に対してできること」でも書けます。ただ、そうすると読み手からすると「ありふれた」答案になる恐れがあります(間違っているというわけではありません)。入試において抜きんでた答案にするために、あえてマクロな視点で社会問題を見るというアプローチをとりました。

 

問 傍線部の筆者の捉え方に対して、あなたはどのように考えるか、1000字以内(句読点等を含む)で述べよ。

 

答 

 筆者は、「ひきこもり」の問題について、自己責任論が社会で一般化することを背景として、存在感が否定され、生きる価値を見失うことによるケースが多いと指摘している。「自己責任論」とは、ある人の現在の状況の責任はその人自身にある、という考え方だ。たとえば、生まれつきの性格により社会になじめずにひきこもり状態になったとしても、それはその人の行為の結果であるからやむを得ないというものだ。

 

しかし、この考え方は、不自由なく生活できるがゆえの結論ではないだろうか。つまり、自分はその能力で現在に至ったため、他の人々もそれは可能であり、それができないのはその人々が悪い、という発想で物事を考えているということだ。もちろん、その考え方自体は個人の自由であるから否定できない。しかし、社会になじめないことが生きづらさをもたらしている要因には、そういった考え方が浸透していることがあるのではないか。すなわち、自己責任論が社会通念となり、社会になじめない人々に有形無形の圧力をかけているのだ。その圧力が生きづらさを感じさせ、結果的に「ひきこもり」の状態になることもあるはずだ。

 

そして、「ひきこもり」状態にある人々の増加は、現代日本における社会階層の固定化、階級化が現れた結果だと考える。社会階層の固定化とは、社会的地位が固定し、そこからの移動、すなわち社会の流動性がなくなることである。戦後の日本社会は、所得が平均値に近い層が大多数だった。現代の社会は富裕層と貧困層とに二極化した状態になりつつある。社会が階級化することは、自己が社会から疎外されているという実感をもたらす。努力しても何も得られないという感覚は、社会における無力感につながるからだ。その中で「ひきこもり」の問題が生じる。こうした社会を生んだのは能力主義の風潮であり、その延長にあるのが現在の「自己責任論」である。筆者の論じる「ひきこもり」の問題は、日本の社会構造が静かに、しかし大きく変容していることを示す。「ひきこもり」の問題が示す社会構造の変化に、私たちは自覚的でなければならない。そうでなければ、気づいたときには取り返しのつかない事態になってしまうからだ。もちろん、「ひきこもり」の問題に個別に対処することは必要だ。しかし、問題の根本的な解決を同時に試みるべきだ。社会の構造や体制を不断に注視し、漸進的な改革を目指すことが現代の私たちに求められている。

(1000字)