No.64 産業医科大学医学部2018年度小論文解説と模範解答例

産業医科大学医学部医学科からの出題です。今回はかなり難しい問題です。問題文は次の通りです。

動物のゾウを知らない小学校4年生がいたとする。この児童に、ゾウとは何かを文章で説明しなさい。(図は不可)※字数制限なし

難しい…と思ってしまいそうな問題ですね。小学4年生に「ゾウとは何か」を文章で説明することは、一見簡単そうで、非常に難しいです。ここでの留意点は次の通りです。

①医学部からの出題であることに留意する
②説明する相手(この場合は小学4年生)の立場に立って考える
③白紙の状態からゾウを描けるような、イメージのできる記述をこころがける

①医学部からの出題であることに留意する

あくまでもこの問題は医学部医学科からの出題です。小論文では、出題者との対話が求められます。なぜこのような出題をしたのか(出題の意図)を考えなければなりません。今回の問題の本質は、「ある事象について、それを知らない人にわかりやすくかみ砕いて説明する」ということです。医学部ですから、その入学者は医師になることが求められます。大学としては、当然「良医」足り得る受験生を選抜したいはずです。医師として医療に従事する中で、様々な患者に、その病状やこれから行う手術について説明をし、了解を得ることは必須です。これを「インフォームドコンセント」と呼びます。医学的な専門知識を患者がもっていることは稀です。したがって、医師が説明することは、患者にとって未知のものです。それをわかりやすく的確に説明し、患者に納得してもらえるのが「良医」の姿でしょう。まずは問いを抽象化して本質をつかむこと、そして出題者の狙いを読み取ることが必要です。

②説明する相手(この場合は小学4年生)の立場に立って考える

今回の説明の相手は「小学4年生」です。年齢にすると10歳です。幼い子どもとは言えないけれど、周囲のものや世界に対する知識もなければ精神的に成熟しているとも言えません。そうなると、まずは説明の仕方や説明に使用する語彙に注意を払うこと、そして何より説明によって相手にイメージしてもらいたいことから逆算して考えることが求められます。つまり、相手の立場で物事を考えるということです。本問では「ゾウとは何か」を説明したいわけですから、私たちが想像するような「ゾウ」の姿を自分の中で思い描き、その姿が最終的に相手にも浮かぶような説明が必要です。

③白紙の状態からゾウを描けるような、イメージのできる記述をこころがける

具体的な説明の手順を検討します。解答者としては「動物のゾウ」の姿を思い描いてもらうことがゴールです。ただ、いきなり「鼻が長くて…」から始めると、相手は全体像がつかめません。細部から入るのではなく、全体像から説明を始めるべきでしょう。その後にディテールを説明していきます。また、具体的な比較対象を挙げることも必要です。たとえば、今回の解答例ではゾウの大きさを「一軒の小さな家と同じくらいの大きさ」と説明しています。相手がイメージしやすい具体的なものに置き換えて、像を結んでもらうということです。また、今回は小学4年生が相手ですので、使用する語彙にも注意を払いました。難解な語句や抽象的な語句は避けました。加えて、「のしのし歩く」や「むしゃむしゃ食べる」のような擬態語を用いて、相手がその姿を想起できるような表現をこころがけました。最後に、相手の小学4年生には偏った先入観を与えたくないため、なるべくフラットに説明しました。白紙の状態に一度書き込みをすると、そこに上書をすることが難しくなるということです。

それでは、どうぞ。


動物のゾウを知らない小学校4年生がいたとする。この児童に、ゾウとは何かを文章で説明しなさい。(図は不可)※字数制限なし

解答例
ゾウは、あなたが街で見かける一軒の小さな家と同じくらいの大きさの動物だ。それもそのはず、ゾウは陸上で一番大きな動物なのだ。日本から遠く離れた大草原やジャングルでもともと暮らしていた。大自然の中で、太い柱のような四本の足でのしのしとゆっくり歩く。果物や葉っぱをむしゃむしゃ食べる。そのときはその背丈くらいに長く伸びた細長い鼻を人間の腕のように使う。鼻で器用にものをつかむことができる。目はつぶらでかわいらしく、耳は大きくて鳥の翼のようにぱたぱた動く。はじめてゾウを見たら大きくてびっくりするかもしれない。黒っぽい色でごつごつした見かけだというのもある。だけど、怖がってはいけない。彼らはぼくたち人間の気持ちがわかるんじゃないかって思うくらい賢いのだ。仲間のゾウにも、慣れればぼくたち人間にも優しい。大きいだけではなくてどこか暖かい動物、それがゾウなのだ。
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