No.73 慶應義塾大学文学部2020年度小論文解説と模範解答例

今年度の慶應義塾大学文学部小論文の模範解答例を書いてみました。課題文はこちらにあります。早速解説と解答例です。

《着眼点》
①「要約」については、文章全体からキーワードを拾って、それを論理的につなぎ合わせる
②「あなたの考え」については、「集団に属するということ」から逸れないように注意する
③論じる際には本文を踏まえた解答を心がける

①「要約」については、文章全体からキーワードを拾って、それを論理的につなぎ合わせる

今回の文章では、「集団への帰属」に関して、「西洋的な中央集権国家への統合」と「非西洋的な複合的な個人の共存」が書かれていました。その上で、前者は破綻しかけており、今後はリベラルな社会としてのネットワーク社会が求められるのではないかとありました。キーワードとしては、「集団」、「中央集権」、「統合」、「共存」、「多元的」が挙げられます。西洋的な中央集権体制と、非西洋的な共存体制を対比しつつ、これらをつないていくことが必要でしょう。

②「あなたの考え」については、「集団に属するということ」から逸れないように注意する

本問のテーマは、「集団に属するということ」です。したがって、中央集権国家か否か、というような二分法や是非論は避けるべきでしょう。書くべきなのは「(個人が)集団に属する」ことについて、自身がどう考えるか、ということです。個人と集団との関係がいかにあるかを考えていくことが求められます。

③論じる際には本文を踏まえた解答を心がける

とはいえ、設問に「この文章をふまえて」とありますから、本文に触れないわけにはいきません。したがって、集団には中央集権的なものと分散的なものが考えられ、その中で個人がいかにあるかを考えた方がよいでしょう。《解答例》では、ホッブズの「万人の万人に対する闘争状態」を下敷きにして書いてみました。

では、どうぞ。

設問Ⅰ
この文章を三〇〇字以上三百六十字以内で要約しなさい。

《解答例》

個人の移動に関して、中央集権国家では、マイノリティの統合を進めるために多文化主義政策がとられたが、近年では破綻しかけている。一方、統合を求めない、多様な人間が共存する社会を想定し得る。これは西洋の伝統の対極にあるものだ。現代の非西洋諸国に見られるように、異なる集団の間での、結合を求めない、寛容性を前提とした人々の移動を志向できるはずだ。良心の自由を根本に据えた、他者との違いを認める考え方だ。こうしたリベラルな社会は現状では確かに支配的ではない。しかし、寛容と共存の仕組みは一考する価値がある。実際に、かつては中央集権的で階層的な国家のみが構想されたが、現在は多元的で流動的なネットワーク社会へと移行しつつある。今後は、指導者が命令と管理を担うのみならず、調整と育成を通じた個人の自由の実現を確保するようになっていく。
(360字)

設問Ⅱ
集団に属するということについて、この文章をふまえて、あなたの考えを三百二十字以上四百字以内で述べなさい。

《解答例》

集団に属することは、個人に安心をもたらす。人間は孤立して生きることは不可能だからだ。集団に帰属したいという欲求をもつのだ。中央集権的な国家は、集団への帰属意識がもたらした帰結だ。そして、本文では分散型社会が今後の個人と集団のあり方として現出するとあるが、本当にそうだろうか。分散型社会を理念型として考えると、それは個人が他者と常に競争する社会だといえないだろうか。個人は自身の権利を最大限に拡張することを志向する。それは他者も同様であり、その衝突を調整するのが、本文の言うところの中央集権的な指導者と社会システムではなかったか。これらがなければ、個人が求める安心感が失われる。そのような世界では自由は達成されるかもしれないが、同時にすべての他者が敵となってしまうだろう。それゆえに、個々人は自身の安心と安定を希求して集団への帰属を求め、その集団そのものは必然的に中央集権的な方向へと推移すると考える。
(400字)