No.66 相模女子大学学芸学部日本語日本文学科2009年度小論文模範解答例と解説

今回の問題は、相模女子大学学芸学部からの出題です。論題は次の通りです。

次のタイトルで、具体的な場面にふれたり、あるいは具体的なイメージをふくらませながら、縦書き二十五行以上三十行以内で自由に書きなさい。
「漢字のひとり言」
(’09相模女子大学学芸学部日本語日本文学科)
(筆者注)字数は推定で500~600字

「漢字のひとり言」って何…。となりそうな論題ですね。このタイトルで小論文を書かなければなりません。《留意点》は次の通りです。

《留意点》
①学部・学科の特性および問題文の指示に着目する
②「漢字のひとり言」がタイトルとなるにふさわしい文章を書く
③「具体的」という問題文の指示を守る

①学部・学科の特性および問題文の指示に着目する

 この問題は「学学芸学部日本語日本文学科」からの出題です。したがって、日本文学を研究することを目指す学生を選抜することがこの問題の目的です。日本文学に慣れ親しんだ受験生を見定めたい、少なくともそれに興味のある受験生に来てほしいという意識は出題者にあるでしょう。ではどう書くか、という問題となります。
 ここで着目したいのは、「自由に書きなさい」という問題文の指示です。一般的な小論文では「あなたの考えを論じなさい」といった指示がよくあります。しかし、今回はあくまでも「自由に」です。ということは、必ずしも「論じる」必要はなく、「書けばよい」ということになります。したがって、小論文の体裁にこだわることなく、随筆や小説のように書くことも許容されると私は判断しました。

②「漢字のひとり言」がタイトルとなるにふさわしい文章を書く

 この論題では、「漢字のひとり言」がタイトルとなる文章を書くことが求められます。ここでタイトルの分析をいたしましょう。
 なぜ「漢字」なのか?これが「ひらがな」や「カタカナ」ではなぜいけないのか。もっというと「アルファベット」ではなぜいけないのか。それを考えます。「漢字」と「ひらがな」などとの違いは、表意文字であるか否か、があると考えました。「漢字」は表意文字です。漢字一字だけで意味を表すことができます。「ひらがな」などの表音文字では原則としてそれはできません。したがって、表意文字であるという漢字の特徴をつかんで書いてみました。
 次に「ひとり言」の部分です。「漢字」が「ひとり言」を言う、というのは通常考えられません。これは何かの比喩と捉えたほうがよいでしょう。また、「ひとり言」となっていて、「独り言」ではないことにも注意が必要です。「独り言」ならば単なる「独白」となりますが、「ひとり言」ならばどこか人間のような風情が漂います。「ひとり」で何かを物語る「漢字」を想起すべきでしょう。

③「具体的」という問題文の指示を守る

これは当たり前のことですが、抽象的な観念論を述べるわけにはいきません。問題文の指示を守って、あくまで「具体的」に叙述する必要があります。では何が具体的なのか、という問題がありますが、頭の中での言葉遊びではなく、現実世界に存在する事象を扱うことが、「具体的」足り得るのではないかと考えました。

以上を踏まえ、解答例に移ります。それでは、どうぞ。


次のタイトルで、具体的な場面にふれたり、あるいは具体的なイメージをふくらませながら、縦書き二十五行以上三十行以内で自由に書きなさい。

「漢字のひとり言」

(’09相模女子大学学芸学部:日本語日本文学科)
※字数は推定で500~600字

解答例
 絹糸のような雨が、ここ数日しとしとと降り続いていた。つい数か月前に高校三年生になったばかりのぼくは、習字道具を小脇に抱えて、習字の授業の行われる教室に小走りで向かっていた。
「ふう」
 一番乗りだ。教室は朝の透明な空気が染み込んでひんやりとしている。ふと、教室の後ろにどこか控えめに貼られている、一つの習字の作品が目に留まった。
 ただ一文字、「大」と書いてある。ぼくはそれを見て目を丸くした。  
 「大」という文字がとても小さく、小さく書いてあったのだ。「大」という漢字には不釣り合いな、小学生のこぶしくらい小さな「大」だった。引き寄せられるように、ぼくはその「大」と書かれた作品に近づいて、一匹の蟻を観察するように見入った。
 別に下手ではない。むしろ、達筆だ。線は流れるようで、ぼくのそれとは大違いだ。しかも、か細いわけではなく、力強く書かれている。なぜ、上手なのにこんなに小さく書くのだろう。
「もしかして…」
 名前を見た。やっぱりだ。この「大」を書いたのは、学年トップの秀才だ。彼は成績抜群なのに、どこにも気取ったところがないことで人気があった。教室でもじっとしているタイプだが、それでいて、自分の考えを訊かれればさらっと答える。彼が書いた「大」は、その性格をこっそりとぼくに伝えている気がした。自分をがやがやと宣伝することなく、ひっそりとしてどこかに強い思いを秘めた「大」。
「大きいな…」
 ぼくは小さくつぶやいた。
(600字)